今日も酔うかい?
どうも、酔いつぶれの妖怪である酔う怪こと「ヨイ」です。
物語のカテゴリーでは、お酒のお供に小話でも読みながら飲んで欲しくて作りました。
出てくる話は、自分の怖い話、不思議な話、変わった話などです。
聞いたものから完全オリジナルなもの、実体験まで様々なので、是非読んでみたください。
今回の話は 「変な創作話」 です。
では、どうぞ‼︎
物語のはじまり、はじまり
雨の日だった。薄暗く人通りの少ない道。街灯が一本しかない階段。その街灯が照らす階段の踊り場で頭から大量の血を流してうつ伏せで倒れている人がいる。
彼は死んでいる。確実にそう言える。私が殺したからだ。
出張で京都に来ていた。商談がうまくいかず気が立っていて、明日東京に帰ることもあり、やけ酒のつもりで飲み屋に入った。
ここまでははっきり覚えている。
どれくらい飲んだのだろう。朦朧とする意識の中、「こんなやつこの世にいらない。殺そう。」と強く思った記憶がある。そいつと揉めたのか衝撃を感じた後、目の前に倒れてるその男を見て酔いが冷めた。
「やってしまった。怖い。怖い。怖い」
そう思ったのは、走り出した後だった。
どれくらい走ったのだろう。息がきれ、肺が痛くなり、込み上げてきた吐き気で足を止めた。いつ出たのか、鼻血が口に入り広がる。それで気持ち悪くなりまた吐く。
腹の中が空になる頃には少し冷静になっていた。
「帰るか…」
最後に一言吐くと、怪しまれないように歩いてホテルにかえった。
部屋に入ると体の震えとどうすることも出来ない不安で落ち着かない。
もう死体は見つかっただろうか。
もう警察は動いているだろうか。
誰かに逃げたのを見られただろうか。
飲み屋の店員は俺のことを覚えているだろうか。
「これは悪い夢だ。朝起きたらいつも通りだ。」そう自分に言い聞かせるとベッドに入った。
朝になった。寝たのか寝ていないのか、一晩中睡眠の間にいた。「朝起きたら」は来なかった。とりあえず東京に帰ることにした。
歩いている時、周りの目が気になる。怪しまれている気がする。疑われている気がする。早く人の居ないところに行きたい。足早に家に帰る。
家に着いて、テレビをつけるがテレビの内容は全く頭に入ってこない。
昨日の夜からずっとそうだ。何も見えない、何も聞こえない、何の味もしない。いや、厳密に言えば、感じてはいるが頭がそれを理解出来てない。
ずっと周辺視野の世界に生きているような感じだ。
家に電話がかかってくる。おそらく会社だろう。でももし、警察かもしれないと思うと手が伸びない。
いや、もはや警察がどうこうではない。誰かと話すと、誰かに見られると、疑われているのではないかと思ってしまう。
俺の人生はずっとついてない。何をしても裏目に出てしまう。女にもモテないし、楽しいことなんて一つもない。
でも、今よりはずっと良かった。五感を感じられて、常に恐怖に襲われることもなく、外に自由に出れて、仕事終わりにビールを飲んで、テレビをみて、たまに笑う。
こうなってから気がつくとは、やっぱり俺はついてない。
昔、本で「人間は常に何かに追われている。何かしないといけないと思ってしまう。その漠然とした恐怖にやられているのが現代人だ。」なんてものを読んだが、本当に追われている恐怖に比べれば何でもない。
家に帰ってから、何日経ったか分からない。目ははっきり開いているのにずっと焦点があってない。
「ガチャガチャ」
突然の音で急激に恐怖が増幅する。
ついに来た。
どうすればいい。
目が回る。
頭は回らない。
「ガチャ」
扉が開いた。結局何も出来ず扉を見つめて突っ立ていた。
最初に予想と違う人間が目に入る。
作業服の男と両親だ。一瞬困惑で恐怖が和らいだが、後ろを見てまた恐怖する。後ろには警察がいた。
やっぱりきたか。やっぱりバレていたか。
彼らは、まっすぐこっちを見て歩いてきた。距離が縮まってきて、ついに目の前まで来た。そして、そのまま私に目も合わせず素通りした。
何が起きたか分からない。彼らは私の部屋を荒らしている。いや、厳密に言うと漁っている。
それを見た私はようやく理解した。
「あぁ、、、そう言うことか。 良かった。」
五感が戻ってくる。
激しい頭痛を感じ、目の前が赤く染まる。
目を閉じて思わず笑みがこぼれる。
「これでようやく寝られるよ」