今日も酔うかい?
どうも、酔いつぶれの妖怪である酔う怪こと「ヨイ」です。
物語のカテゴリーでは、お酒のお供に小話でも読みながら飲んで欲しくて作りました。
出てくる話は、自分の怖い話、不思議な話、変わった話などです。
聞いたものから完全オリジナルなもの、実体験まで様々なので、是非読んでみたください。
今回の話は 「変な創作話」 です。
では、どうぞ‼︎
物語のはじまり、はじまり
皆さんの将来の夢は何ですか?
小学校一年生の時に先生に聞かれて初めて考えた。今でもよく覚えている。
隣の席のみゆきちゃんはパティシエ
後ろの席のしんじくんは警察官
前の席のけんたくんはサッカー選手
僕はヒーローと答えた。
それから20年経った私はヒーローになっていた。わけがない。
アンパンマンにもウルトラマンにもなれないで、私はサラリーマンに変身していた。
世界の平和のかわりに、自分の生活を守る。
愛と勇気のかわりに、酒とタバコが友達になった。
怪獣のかわりに、残業と戦う。
上からの命令を聞いてるところは同じ。
まぁ、そんなしょうもない「マン」になってしまった。
仕事はコーヒー豆の販売だ。BtoBで企業に売っている。変身形態としては営業マンだろう。
と言っても大体営業は終わってるので、新規は見つからない。私は前に一度だけ大きい契約を取ったがそれ以降は取れていない。だからどれだけ現状維持するかが目標みたいなところがある。
小学校の頃からの友達のしんじくんは警察官になりたいと言っていたが、大学に行って楽を覚えたのか、単位を落として留年。卒業はしたけど、特に就きたい職もなく自宅警備員になっていた。同じ警備系だが、外に出ると職質をされる側の警備員だ。
この世界で夢を叶えた人間は何人いるだろう。また、仮に夢を叶えたからと言って幸せになったのだろうか。
なったとして幸せになってない人を私は何人も知っている。こんなはずじゃなかった。思ってたよりいい物ではない。
もし、夢を叶えた人がたくさんいて、その人達が全員幸せだったとしたら、仕事に行くのがめんどくさくなることも無いし、自殺者数が毎年2万人を超えることもない。
今の仕事をしてても食うに困ることもない、でも夢が叶ってないという気持ちは抜け出せない。
そんな事を月に一度気が滅入った時に考える。
ある日まとまった休みが貰えたので北海道に1人旅に行った。厳密に言うとけんじ君に断られて一人旅になった訳だが、目を瞑る。
どこか遠くに行きたい気持ちがあったのかもしれない。せっかく遠くに来たので、生まれ変わった気になって普段しない事をしようと思った。
だから、山登りをする事にした。北海道に来てまで山登りかよと思う人も居ると思う。
私もいつもだったらそう思うが、なんとなくやりたくなったのだから仕方がない。よく言えば山に呼ばれていたのだ。
山登りの服を揃えて、道具も軽く揃えて山に向かった。富士山ほどじゃないだろう。そんな事を思いながら、登って行った。甘かった。
私は足を滑らせて滑落した。幸い雪がクッションになったのか怪我はしていなかった。
でも完全に道を失い遭難した。滑落の時に携帯は落としたのか見当たらなく連絡も取れない。
とにかくこのままでは凍死してしまうので歩く事にした。山道で遭難した時は下山するのではなく、頂上を目指すのがいいとテレビで言っていたのを思い出し、登っていく。ただ、登っても登っても雪が見えているだけ、人間どころか動物すら見つからない。
日が沈み始めて、体力の限界まで来たところでようやく頂上についた。
山頂に来てあまりの疲れで腰をかける。山頂についても誰もおらず、ただただ寒い。
正直このまま死ぬとだろう。そう諦めると自分の人生を振り返った。死ぬ直前に走馬灯をみるというが、もしかしたらそれかもしれない。しかし、私の場合は見ようと思って見ているものではある。
子供の頃なんでヒーローになりたかったんだろう。
確かテレビで見たヒーローがカッコよくてなりたくて、でもなんでかっこいいと思ったんだろう。
私は子供の頃ヒーローになりたいと思っていたが、敵を倒すヒーローごっこをやった事がない。もちろんみんながヒーローをやりたくて敵がいないからと言うのもあっったのだろうが、私はヒーローの困っている人を助けてみんなに感謝されているところが憧れ、そうなりたいと思った。
小さい頃から、承認欲求が強かったのかもしれない。だが、現実は仕事で怒られ、特にいい成績も出せず、上司に怒られ、挙句の果ては「お前はもういい」などと見捨てられることもあった。昔から気を使うのが下手で、良かれと思ってやったことで怒られる。今の私は誰にも感謝されず存在するだけのモブB、いや、会社に迷惑をかけてしまうむしろ敵役かもしれない。なら、敵役らしくここで死んだ方が良いか。誰かのヒーローに、なりたかったなぁ。そう思っていると、目の前がぼやけてきた。
ぼやけた視界の先にヒーローが見えた。なぜか涙が出た。最後まで未練たらしい人生だったなぁ、、、。私は意識を失った。
薪の弾ける音で目が覚めた。見知らぬ暖かい部屋だった。
私がぼーっと起き上がると、遠くから活発な男の人の声が聞こえた。「おぉ!兄ちゃん目が覚めたか!あんなところで寝やがって、俺が通らなきゃ死んじまってたぞ」
そこには50代くらいの体格のいいおじさんがいた。
もしかして、最後に見えたヒーローってこの人か?まさに幽霊の正体が枯れ尾花だった感じだ。
でもこの人は私の紛れもなくヒーローだった。
おじさんがコーヒーを二つ持ってきた、椅子に座った。「兄ちゃんもコーヒー飲むか?美味いぞ!なんであんなところで寝てたのか教えてくれよ」
私は座ってコーヒーを飲みながらあったことを話した。このおじさんは見た目に似合わず聞くのがうまかった。私はそのうち仕事のこと、子供のころの夢、おじさんがヒーローに見えたこと、洗いざらい話した。
一通り話したあとおじさんは口を開いた。「俺がヒーローに見えたって言ってたがよ、生きて誰かに関わっているとき人は誰かのヒーローになってるものじゃねえか?
力持ちだったり空が飛べたりはしないし、仕事だってその人じゃなきゃいけないものなんてない。でも、その瞬間やったのはその人で見えないところの誰かが感謝してる。見えてないからわかりにくいが、それはその人のヒーローになったってことじゃねのかな。」
「俺なんか山で暮らしてるから、たまに街に降りて買い込みするなだよ。カップラーメンは美味いし使い勝手がいい、携帯はあれば困ることも少ない。この一杯の美味いコーヒーを飲むために仕事を頑張ろうと思える。もし誰も仕事をしないで、これを作る人も運ぶ人も売る人も誰もいなくなったら困るだろ?でもその人たちがいるから困らずに済んでる。ヒーローは遅れてくるものとは言うが、それはそれとして、遅れてこないでずっと俺たちの生活を困らないようにしてくれてる人達もとっちゃヒーローなんじゃねえかと俺は思ぜ。」
それを聞いて私はなぜか少し救われた気持ちになった。
「それはそうとこのコーヒー美味いだろ!さっき兄ちゃんの仕事もコーヒー系っていってたろ?このメーカー知ってるか?」
自分の会社のものだった。もっと言えば私が唯一契約したものだった。
「おぉ!これ兄ちゃんが契約したのか!じゃあ、俺は兄ちゃんのヒーローで兄ちゃんは俺のヒーローだな!」
そう言うとおじさんは豪快に笑った。私も笑った。笑いながら泣いた。
それを見ておじさんは「おいおい、ヒーローが泣いてどうすんだよ」というとまた笑った。
その日はそこに泊めてもらい、次の日下山してそのまま飛行機で家に帰った。
家につきどっと疲れが押し寄せてきて私はすぐに寝た。
次の日の朝。スーツに身を包み、腰に革ベルトを巻き、電車で出場する。今日も誰かのために仕事と戦う。
そう!私はヒーロー! サラリーマンだ!