前世の記憶

今日も酔うかい?

どうも、酔いつぶれの妖怪である酔う怪こと「ヨイ」です。

物語のカテゴリーでは、お酒のお供に小話でも読みながら飲んで欲しくて作りました。

出てくる話は、自分の怖い話、不思議な話、変わった話などです。

聞いたものから完全オリジナルなもの、実体験まで様々なので、是非読んでみたください。

今回の話は 「変な創作話」 です。 

では、どうぞ‼︎

物語のはじまり、はじまり

目が覚めると、まぶしい日差しと白い天井が目に飛び込んできた。

独特な薬品の香りが鼻を差し、生活感の無い雑音が耳に入る。

目が日差しに慣れて、周りがよく見えてくると、周りからも自分がよく見られていることに気が付く

「誰だ、、、。」そう思って声を出そうとしたが上手く声が出ない。いや、厳密に言えば声は出ているのだが言葉ではない。

それどころか、体にも上手く力が入らない。周りにはしらない人たちがいて、言葉も体も動かない。怖くなって言葉にならない叫びをした。それに呼応するように泣き叫ぶ声がした。そんなことを続けている時に気がつく。この泣き叫ぶ声は自分の声だ。その瞬間理解した。

    

       「俺、産まれたんだ」

気が付いてからは、恐怖は無くなっていった。しかし、内心は複雑だった。なぜなら、   めちゃくちゃ前世の記憶がある。

「だって、そうでしょ!え、この人たちは親?俺の事育ててくれた親のこと覚えてるのに、急に今日から親交代です。なんて言われても理解できないし、意識はっきりしてるのに、お乳貰ったり、おしめ変えてもらうの恥ずかしすぎるでしょ!てか、産まれ変わるのってこんなにノータイムなの?天国で次の転生先聞くとかないの?前世の俺なんてインキャのコミ障だよ?今更また家族作るの気まずいよー。」と叫んでいた。

赤ちゃんの産声って今世に生まれた時の戸惑いの叫びだったのかもしれない。

それから、全てを受け止めて、あたらしい家で育っていった。新しい親はとても優しくて、何もしなくてもなんでもしてくれる。「一生この年齢でダラダラできたら、仕事もしないで楽に過ごせるのにな〜。月曜日とか関係ないし、7:30に焦って家を出ることも無くなるしな〜。」なんて思っていた。

しかし、違和感は徐々に出始めていた。言葉が話せるようになるにつれて、前世の記憶が無くなっている。

この時期は良く泣いた。怖いからだ。記憶が無くなっていき自分が自分じゃなくなるような感覚がある。「パパ」と言えば、親父のことを忘れ。「ママ」と言えば母さんのことを忘れる。

忘れる事の恐怖は単純に忘れていくことだけではない。怖いのは、忘れている事を気にしなくなっていくこと。忘れていっている事を忘れていることだ。

月日は過ぎ、多くの言葉を理解して、前世の記憶がほとんど無くなった頃にその瞬間は訪れた。

その時僕は、絵本をママに読み聞かせてもらっていた。いつも通りママの真似をして言葉を話す。「林檎」「りんご」。「兎」「うさぎ」。「有難う」「ありがとう」。

その瞬間前世の全ての記憶が思い返された。生まれた日、両親、友達、恋人、部活、会社、奥さん、子供、死んだ日。全ての記憶が、頭の中で泡のように出てくる。

その記憶には必ず「ありがとう」と言っている人が写っていた。

記憶を見ている時、こんな事あったな、そうだったこんな事してたな。と思い返せて、とても温かい気持ちになる。幸福とはこの瞬間のための言葉だと思うほどに幸せな時間だった。

この瞬間のために人はありがとうを貯めている。そうとすら思えるほどだった。

そのうち、一つ一つの泡がくっつき大きな泡になる。全ての泡が合わさって、一つの巨大な泡になった。その中では、前世で初めて「ありがとう」と言った時の記憶があった。

「ああ、この前もこうだったのか、、、」そう思った瞬間に泡が弾けて、前世の記憶は全て無くなった。

目が覚めると、まぶしい日差しに見慣れた天井が目に飛び込んできた。

嗅ぎ慣れた香りがして、アラームの音が耳に入る。

目が慣れてないうちに起き上がるが、それでもどこに何があるかわかる。

起きてない頭で思った「夢か、、、」

なんとなくテレビをつけて、ニュースを見る。

カレンダーを見て思わず声が出る。「月曜日か、、、。」

歯磨きをして、スーツに着替えて仕事に行く支度を整える。

「赤ちゃんだったらなー」とぼーっと口にして靴を履き家を出る。

いつも通りの日常だった。

時計は7:20分を差していた。

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